下村下宿さんは下宿を始めて何年になりますか。どういったきっかけで下宿を始めることになったのでしょう。
下村さん 振り返ってみると下宿を始めてから二十数年が経っています。始めたきっかけは至ってシンプルです。自分も北星余市を7期生で卒業しているのですが、当時の担任の先生に「面倒みてくれや!」って言われたんです。
その先生は、すごい先生で、のちに北星余市が1988年から不登校や高校中退した子を受け入れる取り組みを始めた、ガンちゃんこと、岩本先生でした。
我が家は当時お店をやっていたんですね。一方、その先生は家の裏に下宿していたんです。あるとき、たまたま家の店に飲みにきて、北星の先生だと知りました。偶然、その年に自分も新一年生で北星余市に入学することが決まっていて、先生も新任だったんです。そんなことで意気投合して仲良しになりました。
当時から破天荒な方でしたね。例えば、突然教室に来ては「秀規!今日の弁当のおかずは?」と聞くんです。「あぁ、きょうは卵焼き、ヒレカツ、海老フライ、それと芋サラダ」と答える。すると間一髪いれず「おっ、旨そ!じゃあ、俺、かつ丼の出前取るから弁当と交換してくれや!」なんて感じで。いつもそんな感じで、こっちが考える余裕なんか全く無く、やりたい放題って感じの人でした。でも、思いやりがあって、人の気持ちもちゃんと分かる。悩みとか苦しみなんかも聞いてくれ、ついながら涙してくれるんです。本当に自分にはもったいない位に親身になって接してくれた先生でして。
不登校受け入れの取り組みを始めたころ、いつものように突然家に来て「おう!元気か?ちょいと頼みがあってきたぞ。今までの北星とシステムがガラッと変わり、全国にいる悩みが多い子や、やさぐれてる子いろんな奴が沢山来る事になった!取り敢えず空いてる部屋何処でも良いからめんどう見てくれや〜!いいべ、秀規!」っていうんです。自分には何が何やらサッパリでしたが「全くもって、昔から変わってねぇな!」と思い、断われない自分の事をちゃんと知った上で来てるんだなと直ぐにわかって「まっ、食事とか弁当、そんな感じでめんどうみれば良いんだろう。どうせ食事や弁当などは、母親と女房の仕事だし。自分としてはたまに睨みをきかせておけばいいんだろうから」と軽く本当にノリで受けたって感じでした。
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生徒と地域のお祭りのお神輿担ぎに参加。貴重な経験と地域の方との関わり。 |
先生と下村さんの関係、すごいですね。それで、下宿を始めてからはどうですか。
下村さん 実際始めてから、数年は大した携わることもなく、自分の仕事だけしていました。けれど、時間が経つにつれて、いつの間にか生徒の事が気にかかりだしました。「このままじゃいけない、自分も何かしなくては」と自分自身に言いきかせて「自分も若い頃は悪い事もいっぱいしたし、謹慎も数回あった‥‥もしかしたら、時代は違ってもきっと分かり合える」と思い、子供たちと向き合うようになりました。そんな感じで今現在に至ってます。
生徒と向き合う日々はどうですか?印象に残った出来事とかありますか?
下村さん それはもう様々な生徒がいて、ガチンコで喧嘩したり、泣きながら訴えたり、色々な経験をさせてもらいました。なんていうか、、、卒業した生徒もそうですが、むしろ志し半ばで辞めて言った子の方が印象深いかもしれないです。自分のした事とは言え、後ろ髪引かれる思いで去って行った子‥‥帰り際に「皆んな、俺みたいになったら駄目だぞ!絶対卒業しろよ!!」なんてことを言う子もいてですね。それはもう泣きたくなるシーンで、本当に印象深いです。「もし、やり直しできるなら、もう一回北星に帰りたい。だから、みんなも頑張ってくれ」なんて言って去っていくんですね。
学校を去らねばならない状況で、そういう思いを抱く子どもっていうのは、あまり聞いたことがないですね。きっと、いろいろな思いがここ北星余市にはあるのでしょうね。
下村さん そうですね。なんだかんだいって子どもだから色んなことをやるけれど、学校の仲間、寮の仲間、先輩、後輩、我々管理人、先生達、色んな人の思いで成り立っている学校ですからね。その思いを感じてくれているんだと思います。
そんな事を今改めて思い出して見ると、この北星余市にはまだまだ悩み多き子にとって必要な存在だと思います。今一歩踏みきれない子もいるだろうけれど、人として成長したいと思っている子は全国にいますよね。自分はそうした子供たちをやはりなんとかしたいし、良い方向へと導きたいと思っています。
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卒業式当日、卒業生と。 |
子ども達に向き合う上で大切にしていること、取り組んでいることを教えてください。
下村さん 今の子には決められた教育より導きが必要だと思っています。それは北星学園の理念でもあり、それを遣り抜くべきだと思いますね。まだまだ手を差し伸べてあげなければならない子が沢山待っています。その為には我々下宿も誠心誠意全力で、今もこれからも取り組んで行きたいと思っています。
箸の持ち方も分からない、食材の名前もろくに知らない、朝の挨拶も出来ない、北星に来ても何をどうして良いのかも分からない、挙げたらキリがない位沢山あります。でも、皆んなあったかい血が流れてる。そう皆んなです。いつかきっと「北星余市に来て良かった」とかならず振り返ってくれると思い、頑張れるんです。
つまらない下宿生活にならないよう様々な取り組みもしています。入学祝いにはじまり、夏の焼き肉、日帰りリクレーション、卒業祝いの旅行などですね。それは、子どもたちが大人になったとき、「北星に来て良い人生だった」と言える様に、そして胸を張って生きていけるようにと思っています。
自分の恩師でもあり、きっかけをくれた、ガンちゃんは数年前、他界されました。そんな志し半ばで倒れてしまったガンちゃんの為にも‥‥頑張らなくてはいけないと思っています。1人として落ちこぼれない様に、日々頑張っていきます。
下村さん、熱い思い、ありがとうございました。